「なんの委員会に入ってるの?」
一か月ぶりに全員で囲んだ食卓。
今日の夕食はおいしそうなすき焼きだった。
約束通り七瀬は月加の卵をぱかっと割ってくれて、月加は七瀬の器にお肉や野菜をよそった。一回目だけ。
質問したのは、その後のことである。
月加は箸の動きを止めた響に、冷ややかな視線を向けた。
「委員会、入ってるんでしょ?」
「……ああー……そう、美化委員」
ふうふうと焼き豆腐を冷ましながら、響は月加を見ずに答えた。
月加はふっくら炊きあがっているごはんを食べ、飲み込んでからまた訊いた。
「毎日あんまり顔合わせなかったけど、ずいぶん忙しかったのね。どんな仕事があったの?」
「そりゃまぁ……、アレだ、そうじとか」
「へぇ、大変だね」
「ああうん、そうだなわりと」
「あんたってそういう面倒なことは上手く他人に押し付けるタイプだと思ってたけど」
訊いている真横では、七瀬が月加の空になった器をとって、なぜかよそってくれていた。
響はしらたきを飲み込んで、
「人をむやみに疑うのはよくないと思うね」
と白々しく言った。
「だってあんた絶対委員会になんか入ってないし。――わたしシイタケいらない」
後半はよそってくれた七瀬に言って、器を差し出す。取ってくれ、と言う意をこめて。
しかし七瀬は「好き嫌いすると大きくなれないよ」と言って、自分の分を食べる。取ってくれそうにない。というか、別にこれ以上大きくならなくてもいい。身長は平均くらいある。
月加はむう、と器を見下ろした。シイタケきらい。
無言で斜め向かいにいる響に器を差し出してみる。
「…………」
響もシイタケが嫌いだ。
彼は月加の器の中をしばらく見つめ、「俺は美化委員会に入っている」と言った。
月加は頷く。
「美化委員はシイタケ好きよね?」
「決してそんなことはないが今だけ食べれる能力を身に付けた。ことにする」
何かを決心したように言って、響はとても嫌ぁな顔をしてシイタケを箸で取り、しかめっ面で口を動かした。それからすぐにお茶で流し込む。
「美化委員、さすがね」
「美化委員だからな」
これにて嘘はなかったことにされた。響は安心してすき焼きを楽しむことにして、月加はシイタケが消えたので一応許してあげることにした。
七瀬がやれやれとまた月加の器を手にとって、追加をよそう。
「あっ、白ネギきらい」
「食べないと大きくなれないよ」
ことん、と置かれた器を、月加は不服げに見下ろして。
七瀬がお給仕さんにお茶を貰っているすきに、こっそり白ネギを彼の器に引越しさせた。
彼はもちろんその所業に気づいていたが、自分をうかがう月加が小さい子供のようで可愛らしかったので、何も言わずに食べてやった。
この許嫁はじつは好き嫌いが多いのである。本人は認めないが。
「おいしい?」
七瀬が問えば、好きな具だけ食べている月加はこくりと頷く。
自分がいない間、この基本的に少食な許嫁は、初めのうちは使用人たちが驚くほどたくさん食べていたそうだが、しばらくすると普段よりもさらに少食になってしまっていたらしい。それは予想外な出来事だった。
悪いことをしたと思うが、同時になんとも可愛いことだと七瀬は思う。食欲は彼女の口より素直だったようだ。
「それはよかった」
七瀬は微笑んで、食後のデザートにとりかかった。
おわり