日曜日の歌声

 大きなうさぎのぬいぐるみを買ってもらった。
 女の子はほくほくとそのお腹に抱きつく。
「うーちゃんかわいー」
「月加の方がかわいーぞー」
 そう言ってぬいぐるみごと女の子を抱きしめたのは、二十代後半の男。
 きゃはは、と女の子は笑う。
 男も笑った。
 そこへ、優しげな女の声がかけられる。
「巽(たつみ)さん」
「んー?」
 男が女の子とうさぎを抱きかかえたまま振り返ると、部屋の戸口に若い女が立っていた。
「月ちゃんはもうおねむの時間です」
「まだ眠くないよな?月加」
「なーい」
 その返事に、女は腰に両手をあてて、しかめ面になった。
 しかし、元がやさしげな風貌なので迫力はない。
「巽さん。甘やかしはよくないわ」
「うっせーなぁ。いいじゃん、甘やかせば。でろでろに甘やかしたい俺は。だって可愛いもんウチの子。ほれ、超かわいい」
 そう言って、男は大きなうさぎにひっついたままの女の子を、ぶらーんと抱き上げて見せる。
 女の眉がぴくりと動く。
「ちょっと」
「なんだよ」
「そのまま動かさないで」
「あ?」
 女はくるりと背を向けると、廊下に消えて行った。
「……なんだありゃ。へんなママだなー月加」
「なー」
 そうして少し待っていると、女は何かを手にして戻って来た。
「お前なにしてんの、蘭(らん)」
「なにって記念撮影」
 彼女はカメラを構えて真剣な口調で答えた。
 男はため息を吐く。
「蘭。らんちゃん、俺ねぇ、腕がそろそろ限界なんだけど」
「何言ってるの情けない。自分の子くらい余裕で抱きあげないでどうするの」
「良く見ろボケナス、自分の子プラスうさぎだ」
「はい月ちゃんニコー。ニコーってして」
「聞けよオイ」
 男の抗議はさらりと無視される。
 パシャリと一枚。
「よし」
「よし、じゃねぇよ。――後で俺にも見せろ」
「やなこった。――さあ、月ちゃんはママとお昼寝しましょうね」
 そう言って、彼女は女の子を抱きあげる。
 もれなくうさぎがくっついてきた。
「おひるねー」
 男は不満げに訊いた。
「月ちゃん、パパは?」
「またこんどー」
「だって。残念でした〜」
 二人は男を残して部屋を出て行った。
 少しして、隣室からかすかに歌声が聞こえてくる。
 やさしい歌声だった。 
 男は、ふ、と微笑んで煙草に火をつける。
 そうして日曜日の午後はゆるやかに過ぎて行った。

おわり??

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