エリスがまたいつものように寝込んでいると聞いたので見舞いに行くと、彼女は意外にも穏やかな顔で眠っていた。侍女のマリーだかメリーだかメアリだかが、ちょうど熱が下がって落ち着いてきたところだと言っていたのを思い出す。
ヘルムートはベッドの横に椅子を置いて、しばらく様子を見守ってみることにした。
いつもは白い頬が、熱のためか赤くなっている。寝込んでいるエリスを見るのはかわいそうで、自分のことではないのにつらい。
「なんでかな……」
他の誰が同じ状態にあっても、こんなにも心が痛むことはないだろう。自分の父親とか、ずっと面倒を見てくれている執事のセドリックあたりが倒れたら、そりゃあ心配はするだろうが、一部で「悪魔」呼ばわりされる自分が、できることなら代わってあげたいなどという殊勝なことまで考えてしまう相手は、エリス以外にはいない。
自分でもどういうわけか分からないが、この子は特別なのだった。
ちょん、とその頬を指先でつつく。
エリスは無反応だった。深い眠りの中にいるのだろう。
栗色の長い髪が、ベッドの上に広がっていた。ヘルムートはそのゆるやかに波打つ髪の一部をすくいとると、暇つぶしに三つ編みにし始めた。
ぐっすり穏やかに眠っているのなら、起こすわけにはいかない。そのまぶたが自然に上がり、森のような美しい緑の瞳が現われて、こちらに気づくまではそっと見守らなければならない。
ヘルムートは、エリスの肩を軽く叩いて、さっさと起こしてしまいたい衝動にかられながら、もくもくと三つ編みをしていく。
起きたら怒るかな。
いや、この子は怒ったりしない。
細い三つ編みがいくつもできているのを見て、びっくりした後、そっと優しく笑うだろう。
想像したら、やっぱり早く目を覚ましてもらいたくなったが、なんとか我慢した。
――――さっさと起きて、僕を見て笑えばいいのに。
「まったく、きみは嫌な子だなぁ」
ヘルムートは三つ編みにした髪を眺めて呟いた。
こんなに自分を待たせるなんて。
こんなに自分を心配させるなんて。
他の誰にもできないことをやってのけるのだから。
おしまい