ヘルムートお悩み相談室

「やあ、小さい画家さん」
「あ…ヘルムートさま…。こんにちは…」
「―――どうしたの?」
「え…?」
「いつも以上に元気がないじゃないか。具合が悪いなら寝てなよ」
「あ…ううん……具合は悪くないよ」
「何かあったの?絵も描かずに、椅子の上でぼうっとして」
「………」
「なに。なんで泣くの。エリス、わけを話してごらん。ほら涙を拭いて」
「……っ、……あ、あのね」
「うん」
「ケ、ケンカ、しちゃったの…」
「誰と?」
「レスター、と」
「レスター?誰だっけ」
「あ、とも、友達なの。湖の向こうに、住んでて……」
「…………ああ、思い出した。前にきみが絵に描いてた奴。……ふぅん……、で?」
「え、と…、わたし、料理長のジョセフさんとケーキを焼いたんだけど」
「きみが?何でまた」
「レスター、今日、お誕生日だから。お祝いに……」
「――へえ。ちなみに僕、先週誕生日だったんだけど」
「え…、あ、ごめんなさい。知らなくて…。えっと、おめでとうございます」
「……まあ、いいけど。で?」
「それで…、いつもお世話になってるから、そのお礼も兼ねて、レスターの好きな苺のいっぱい乗ったケーキにしたの…」
「……へー…。ところで、きみ僕の好物知ってる?」
「え…?ううん」
「―――まあ、そういう話したことなかったからね……別にいいけど。で?」
「えっと、ジョセフさんお昼ごはんの準備もあって、忙しいみたいだったから、わたし飾り付け任せてもらったの。それでね、ほかにレスターの好きなものないかなって考えて、キャンディーとクッキーと、あとチーズを思い出して」
「……やけに詳しいね、そいつのこと」
「うん。仲良くしてもらってるから」
「……僕は仲良くないとでも?」
「え?ごめんなさい、いまの、聞き取れなかったの。もう一度…」
「いいよ、何でもない。続けて」
「…?あの、それでわたしケーキに乗せたの。クッキーと、チーズと、あと包装紙、水玉で可愛かったから、そのまま」
「……何を包装紙ごと乗せたって?」
「キャンディー」
「それはそれは…。えらく個性的なケーキだね。見てみたかったな」
「それで、きらきらして綺麗だったから、いろんな色のガラス玉も乗せて、」
「ガラス玉」
「うん…それで、完成したのはいいけど、わたし、ちょっとだけ熱が出ちゃって自分で渡しに行けなくて………おめでとうカードを付けて、侍女のメアリにケーキを届けて貰ったの」
「おめでとうカード…?それって君の直筆?」
「うん。いつもありがとう、お誕生日おめでとうって。似顔絵も描いたよ」
「………へぇ、ふーん、そう」
「ヘルムートさま、あのね、レスターは魔法使いでね、とっても素敵な魔法を使えるの。わたし、大好きなんだ」
「…………。あのさ。その最後のは、魔法のことだよね」
「うん…?」
「ならいいけど。ていうか、きみ、僕のことは褒めたことないよね」
「え、そう、かな…。んと、ヘルムートさま……は、えっと。あっ、美人さん……!」
「……。」
「……あの……ヘルムートさま、何か、怒ってる……?」
「いや?僕が怒る理由ある?」
「…う、ううん……」
「じゃあ怒ってないよ。続けて」
「……ん、と、あ。それで、レスターに渡したら、あ、あのね……」
「ああ、また涙こぼして。目が真っ赤じゃないか」
「れ、れすたーが。れすたーが、ね、わたしのこと『馬鹿』って……」
「は?なにそれ。きみにそんな暴言吐いたの?」
「わた、わたしが悪いの。キャンディー包装紙ごと乗せちゃって、それに、考えてみれば、クッキーもケーキには余分な感じだったし」
「最大要因はそこじゃないと思うんだけど」
「レスター、『お前は俺に殺意でもあるのか』って、わたし、そんな。そんなつもり」
「ああ、わかってるよ。ガラス玉くらい、乗ってるの取ればいいだけなのに大げさな奴だね。きみは悪くないよ」
「ち、ちがうの」
「何が?」
「レスターが怒ったの、あの、わたしが乗せたチーズ…が」
「実はチーズが嫌いだったとか?」




「ねずみさんのだったの……」




「……………。殺鼠剤入りチーズか……。きみ実はそいつに恨みでもあるの?」
「う、ふぇ……っ」
「ああ、ごめん、そうだよね、ないよね。泣かない泣かない」
「レスター、とうぶん呼ぶなって言って、会ってくれな……うっ、…ひっく」
「いいじゃないか別に」
「だ、だって、やだぁ……」
「……ちなみに僕が来れないって言ったら?」
「えっ……。あの……寂しいけど、し、仕方ないって思う……」
「いま僕ときみとの距離が正確に測れたよ」
「?」
「で、そいつ何が好きだって?」
「え…?えと、苺と、ジンジャークッキーと、あと……」
「わかったよエリス。二度ときみがそいつのことで悩まなくてもいいように、僕が何とかしてあげる」
「ヘルムートさまが…?あの、わたし、レスターと仲直りできる……?」
「ああ、お安い御用だ。君からの仲直りの印だと言って、苺とうちのコック特製のジンジャークッキー送り付けるから。簡単なことさ。きみは何も心配しなくていいよ」
「ありがとう…ヘルムートさま……。」
「やっと笑ったね。じゃあ、また来るねエリス」
「うん。さようなら」



「お姫」
「あっ、レスター!あ、あの、わたしのこと、も…怒ってない?」
「あー、もういい。いつまでもメソメソされるとうざいし。つーか、お前、悪いこと言わねぇから、悪魔とは縁切っとけ」
「あくま…?」
「知り合いにいるだろ、そういう奴」
「え…?ううん、いないよ?……あっ、でも、天使さまならいるよ。ヘルムートさまっていうの。すごく優しいんだ」
「………そりゃヘルムート・ラングレーって名前か」
「うん。あっ、ヘルムートさま、わたしの代わりにレスターに贈り物してくれるって言ってたけど、」
「ああ、衝撃の苺とクッキーが一箱ずつ届いたな」
「衝撃って、そんなにおいしかったの?あ、そうだよね、ヘルムートさま公爵家特製クッキーって言ったから、きっとすごく特別な材料で作ったのね」
「特別も特別だろうな、池の魚が全滅だ。おかげで魔法薬の実験がしばらくできねえ」
「え?」
「いや、なんでも。まあとにかく、アレは止めとけ。お前後々ぜったい泣かされるぜ」
「そんなことないもん……。ときどき意地悪だけど、でもちゃんと優しいから、大丈夫だよ?」
「…………」
「レスター?どうして遠い目をするの?」
「お前って幸せなやつ……」
「?」         

おわり


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