あちらとこちら 後編

『親愛なるヘルムートさま
海の絵葉書はいちばん綺麗で素敵……!
まるでわたしも旅をしているみたいです。ありがとう……!
レスターのお家は湖のそばだから、とっても景色が良くて、それに面白いものがたくさんある素敵なお家なんですよ。
また今度、ヘルムートさまも一緒に訪ねてみませんか?
同い年のヘルムートさまが遊びに行ったら、きっとレスターも喜びます。
わたし、二人はとっても仲良くなれると思うんです。


ヘルムートさま、そちらのことは書いてないけど、楽しくないのですか……?心配です……。

        エリス』



『エリスへ
こっちが楽しいか楽しくないかといえば、楽しくないよ。僕自身が望んでこの国に来たわけじゃないからね。単なる付き添いだし…。
ちなみに元凶のリカルドは、まるで自分ちみたいに寛いで楽しんでるよ。僕を巻き込む必要が見当たらないほどね………。
まあだけど、僕のことは心配しなくてもいいから。色々と勉強になるのは確かだし、つまらないのは我慢できなくもないし。



それよりレスター・オルスコットのことだけど。


仲良くって何。無理だよ。するつもりもないし。
―――あのねぇエリス。世の中には、お互いのことをよく知らなくても、一目で永遠にわかり合えないことが分かる相手っているんだよ。僕の場合、レスター・オルスコットがそれなんだ。
そういうこともあるんだよ。

じゃあね。

       ヘルムートより』



『親愛なるヘルムートさま
舞踏会の絵葉書、まるで絵本の挿絵のようで、すごく気に入りました。
わたしは今日も元気です。今日はレスターが町に買い出しに行くと言うので、一緒に行かせてもらって、お買い物の仕方を教えてもらいます。
ヘルムートさまも一緒に行けたらいいのに…。残念です。


ヘルムートさま、レスターはとっても良い人で、優しいんです。めったに笑わないから、一見こわいけど、でも親切でわたしは大好きです。
だから、ヘルムートさまにも仲良くしてもらいたかったんです……。
でも、ヘルムートさまの言うように、誰しも相性の悪い相手っているんだって、メアリやヴァルにも言われてしまいました。
無理強いしてしまってごめんなさい……。

        エリス』



『エリスへ
わかってくれたようでよかったけど。
きみはアイツにずいぶんと懐いてるんだね。


「大好き」なんだ?
―――へぇ。
知らなかった。


まあ別にいいけど。
―――じゃ。

       ヘルムートより』



『親愛なるヘルムートさま
お花畑の絵葉書、春らしくて綺麗ですね。
……あの、まだ怒っていますか?
お手紙から、そんな感じがして……。違っていたら、ごめんなさい。


ところで、そちらではお友達つくりましたか?
わたしもいつか異国へ行って、お友達をつくりたいです。
最近はすごく具合が良いから、今ならどこにでも旅行に行けそうです。だけど、そんな予定がないのが残念でなりません。
でも代わりに、楽しみな予定があります。明日コレットとお菓子作りをすることです。
うまくできたら、レスターに持って行こうと思います。レスターは甘いもの好きだから、うんと甘くておいしいお菓子が作れたらいいな……。
ヘルムートさま、そちらの食事はお口に合いますか?こちらにはないものが、きっとたくさんあるんでしょうね。

        エリス』



『エリスへ
予定より一ヶ月半早いけど、僕だけ先に帰ることにしたから。帰ったら毎日会いに行くから、他の予定はいれないように。

       ヘルムートより』



「…あ!」
 散歩から戻ったエリスは、自分の部屋にヘルムートからの絵葉書が届いていることに気づいた。
 今回は異国の町並みに、虹が架かっている絵葉書だった。
「わあ…」
 エリスは嬉しくて、頬を緩ませた。
 素敵な絵葉書も嬉しいけれど、何よりヘルムートが便りをくれることが嬉しい。あの綺麗で聡明な天使さまから気にかけてもらってるということが―――。
 それから、エリスは裏面を見たのだが、びっくりしてしまった。
 ずいぶん急な帰国だ。それに、王子さまを置いて一人で、とある。
「ヘルムートさま、どうしたんだろう……。行くときも急だったけど、帰るのも急だ……。王子さまと喧嘩でもしちゃったのかなぁ……」
 エリスは心配しながら、ひとり首を傾げた。
 それに帰ったら毎日会いに行く、とあるけれど、何かそうしなければならない用事でもあるのだろうか。
 エリスは、ヘルムートが用もないのに頻繁に訪ねてくれるのには、それなりの理由があるのだと信じて疑わなかった。自分に会いたくて来てくれるのだとも思わない。
「お父さまのご用事かな?」
 うん、きっとそうに違いない。ヘルムートの父親と、エリスの父親とは親友だから、何か用事を頼まれたのだろう。
 お茶を運んできた侍女のメアリにそのことを話すと、彼女は非常に楽しそうな―――というより爆笑寸前の微妙にゆがんだ顔で「へ、へええ、左様でございますか……ぶくくっ」と言った。
 そんなに面白いことを言った覚えはないのに、とエリスは不思議に思った。

 

おわり  


 

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