銀色のとけない魔法 おまけ

「レスター、雪だるま、昨日溶けちゃったの。でも嬉しかったよ。ありがとう」
「………」
 エリスがふんわり微笑んでお礼を言うのに対し、レスターは無言無表情だった。その視線は、エリスの手元に注がれている。
「それでね、わたしもレスターにお返しがしたくて。はい、これ」
 差し出したのは、お皿に乗ったケーキ。
 生クリームたっぷりの大小の丸いケーキが並んでいて、その小さいほうにはラズベリーの目とチョコレートの口、大きいほうには苺を三つ乗せ、ボタンに見立てた。見た目はシンプルだけど、中にはぎっしりと果物が入っている。
「……お前が作ったんじゃねぇだろうな」
 きっとレスターの脳裏には『ガラス玉とねずみさん用チーズ入りケーキ事件』が蘇ったに違いない。エリスは過去の失敗にちょっと赤くなりながら言った。
「料理長のジョセフさんだよ」
「なら食う」
 失礼なことを言って、レスターはもぐもぐと食べ始めた。顔には出ないけれど、たぶん気に入ってくれているはずだ。レスターは甘いものが好きだから。
「お前の分は」
 雪だるまの胴体部分、大きいほうを食べ終えたレスターが訊いた。
「ないよ?レスターのぶんだけ作ってもらったの」
 エリスがそう答えると、彼はお皿と自分が使っていたフォークを差し出した。
「もういらないの?」
 まだ頭部分の小さいケーキが残っているからそう訊いたら。
「そんなに食えるかアホ」
 と言ってレスターは帰って行った。
 今日は「大した用もないのに呼び出すな」とは言われなくてよかったと思いながら、エリスは残りのケーキをフォークで小さく切って、口に運ぶ。
 レスターはときどき嘘つきだ。
 前に彼がこれより大きなケーキをぺろりと平らげたことがあるのを知っているエリスは、ほわほわ微笑みながら思った。

 

おしまい  


 

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