天使と妖精と おまけ

おまけ

「ところで、ヘルムートさまはなんの仮装をするんですか?」
「きみの好きそうなもの」
「わたしの……」
 自分の好きな衣装、彼にいちばん似合いそうな仮装。
 きっと白い翼のついたそれは、誰より彼に似合うだろう。
 エリスは嬉しくて笑った。
 …………自分の着ることになった妖精の衣装の、ちょっぴり開きすぎのような気がしてならない胸元と短い裾のことは、ひとまず忘れて。





おまけのおまけ

「……見た?」
「うん、見た……」
「あれ、天使の衣装だろ?」
「うん、翼も布地も白だからな……」
「なんで旦那さまが、よりにもよって天使の仮装……?」
「そりゃあ……奥さまが喜ぶからだろ。実際、すごく喜んでたし」
「奥さまといえば、なんで上着をきっちり着込んでいたんだ?あれじゃ何の仮装か分からないぞ」
「なんでもなにも……旦那さま、奥さまに関しては心が狭いからだろ。でも、女の子たちは見せてもらったらしい。妖精だったんだと。羽がついていて可愛かったって」
「ああ、妖精かぁ。似合うだろうな」
「ちょっと見てみたかったな」
「馬鹿。お前うかつなことを言うなよ。旦那さまに聞かれたら、目玉をくり抜かれて剣で串刺しにされるぞ」
「……天使なのに?」
「……天使なのは衣装だけだ」
「俺、あれ見た時、一瞬黒く染めるのを忘れてるんじゃないかと思った」
「お前も?」
「え、お前らも?」
「俺はあまりにも似合わない姿にぞっとした」
「……いや、似合ってはいたじゃないか。見かけだけは」
「……見かけだけな」
「ていうか、奥さまに『お菓子くれなきゃいたずらします』って言われた時の旦那さまの顔見た?」
「ああ、見た。すごく悪い……いや、イイ笑顔だった」
「うん、嬉しそうだった。持っているはずのお菓子をあげずに『お菓子ないから、いたずらしてごらん』って言って、奥さまの困り顔見た瞬間なんて、特に……」
「俺は奥さまがかわいそうだった……」
「うん、俺もかわいそうに思いながら見てた……」
「しかも『きみができないなら、僕がきみにいたずらする』って……意味がわかんないよな」
「でも奥さまは素直だからさ、まんまと言いくるめられて、膝に抱っこされて……」
「そのあとどうなったの?」
「さぁ……。俺たちはすぐに部屋から追い出されたからなぁ」
「なんにせよ奥さまは気の毒だ」
「それを言ったら、結婚させられてる時点でもう……」
「ああ……そうだった……」
「しかし……、俺たちがお菓子用意していなかったら、きっと昔みたいに二階から逆さ吊りにしたり、物置に一昼夜閉じ込めたり、頭をかぼちゃ柄に剃ったり、ベッドに蛇を入れたり、私服をオレンジに染めたりするんだろうに……」
「……お前、そんなことされてたの?」
「昔からいる奴だと、俺以外にもされてるよ。旦那さまは……あの頃は若さまって呼んでたけど、そりゃあ容赦なかったし」
「……そりゃ今もだろ」
「……うん、今もだったな」
 かぼちゃやオバケや怪物たちは、なんとも言えない気持ちになりながら、休憩を終えてそれぞれの持ち場に戻って行った。

おしまい  


 

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